ゴム金型汚染【実践編①】~ゴム金型汚染防止のためのゴム改善方法~

ゴム基礎知識

ゴム製品の製造において、金型汚染は品質低下や生産効率悪化の大きな要因です。金型表面にゴム材料の成分が付着・固着することで起こるこの問題は、適切なゴム材料の選択と配合設計によって大幅に改善できます。このブログでは、ゴム金型汚染を防止するための効果的な材料改善方法について解説します。

汚染の少ないゴム種の選択

金型汚染の防止において、最初に考慮すべきは使用するゴム材料自体です。ゴムの種類によって加硫反応時の挙動や副生成物の量が異なるため、汚染の程度に大きな差が生じます。

汚染が少ないゴム種

  • フッ素ゴム (FKM): 化学的安定性が高く、加硫時の副生成物が少ないため、金型汚染が発生しにくい
  • シリコーンゴム (VMQ): 離型性に優れ、金型表面との親和性が低いため汚染が少ない
  • エチレンプロピレンゴム (EPDM): 不飽和結合が少なく、熱劣化が少ないため分解物の生成が抑えられる
  • ブタジエン系ゴム (BR): 加硫過程が比較的安定しており、金型汚染が少ない傾向にある

注意が必要なゴム種

  • クロロプレンゴム (CR): ハロゲンを含有しており、加硫時にハロゲンガスが発生し金型を著しく汚染することがある
  • 天然ゴム (NR): 高温加硫時に様々な分解物を生成しやすく、汚染の原因となりやすい

製品の要件に合わせながらも、できるだけ汚染の少ないゴム種を選択することが重要です。完全に汚染を防ぐことは難しくても、ゴム種の選択だけで汚染の程度を大幅に低減できることがあります。

配合設計の最適化

正しいゴム種を選んだ後は、配合設計の最適化が次のステップです。加硫系や配合剤の選択が金型汚染に大きく影響します。

加硫系の選択

  • 硫黄加硫系の低減: 硫黄と亜鉛華の反応で生成される硫化亜鉛は主要な汚染物質となるため、硫黄量は必要最小限に抑えましょう
  • 過酸化物加硫系の採用: 硫黄加硫に比べて副生成物が少なく、金型汚染が少ない傾向があります
  • レゾール加硫やウレタン加硫: 特定のゴム種では、これらの加硫系が金型汚染を低減できることがあります

配合剤の最適化

  • 老化防止剤: 低揮発性・低移行性の老化防止剤を選択することで金型汚染を減らせます
  • 充填剤: シリカやカーボンブラックなどの充填剤は適切な量と分散状態を維持しましょう
  • 可塑剤・軟化剤: これらは金型表面に移行しやすいため、低揮発性で移行しにくいタイプを選びましょう

金型汚染防止剤の活用

物性に影響を与えずに金型汚染だけを防止するための特殊添加剤の使用も効果的です。

効果的な金型汚染防止剤

  1. ステアリン酸類: ステアリン酸やステアリン酸亜鉛などは少量の添加で効果を発揮します
  2. 金属石鹸: カルシウム石鹸やマグネシウム石鹸は金型表面への移行を抑制します
  3. シリコーン系添加剤: 金型表面との親和性が低く、汚染防止に効果的です
  4. 有機リン系添加剤: 特にクロロプレンゴムでは、亜リン酸トリ(ノニルフェニル)エステルなどが効果的です
  5. フッ素系添加剤: 離型性を向上させ、金型表面への付着を防ぎます

金型汚染防止剤を使用する際は、配合量の最適化が重要です。過剰な添加は物性に悪影響を与える可能性があるため、適切な量を見極めましょう。

配合技術の改良

分散性の向上

配合剤の分散不良は金型汚染の一因となります。以下の対策で分散性を向上させましょう。

  1. 混練り条件の最適化:
  • 適切な混練り時間と温度を設定する
  • バンバリーミキサーやオープンロールミルを適切に使用する
  1. 分散助剤の使用:
  • 配合剤の分散を促進する助剤を使用することで、均一な分散状態を実現する

材料の相溶性向上

異なる配合剤間の相溶性を高めることで、配合剤の移行や析出を抑制できます。

  1. 相溶化剤の使用: 異なる相間の親和性を高める相溶化剤を使用する
  2. 配合順序の最適化: 配合の順序を工夫することで相溶性を向上させる

実例と効果

クロロプレンゴムの改良例

クロロプレンゴムは金型汚染が発生しやすいゴム種ですが、適切な対策で大幅に改善できます。ある研究では、クロロプレンゴムに亜リン酸トリ(ノニルフェニル)エステルを添加することで、金型汚染が大幅に低減されました。この添加剤は、クロロプレンゴムの加硫時に発生するハロゲン化合物の金型表面への付着を抑制する効果があります。

EPDM配合の最適化例

EPDMゴム配合において、過酸化物加硫系を採用し、適切な補強充填剤と老化防止剤を選択した結果、従来の硫黄加硫系に比べて金型汚染が50%以上減少した例があります。この改善により、金型洗浄頻度が大幅に減少し、生産効率が向上しました。

シリコーンゴムの配合改良

シリコーンゴムは元々金型汚染が少ないゴム種ですが、特定のシラン系カップリング剤を添加することで離型性がさらに向上し、金型汚染がほぼゼロになったケースも報告されています。

まとめ

ゴム金型汚染の防止は、製品品質の向上と生産効率の最適化に直結する重要な課題です。適切なゴム種の選択、配合設計の最適化、金型汚染防止剤の使用、配合技術の改良など、複合的なアプローチで効果的に対策できます。

これらの対策を組み合わせることで、金型の洗浄頻度を減らし、製品品質の安定化、生産効率の向上、コスト削減につなげることができます。最適な対策は製品や製造環境によって異なるため、自社の環境に合わせた戦略を構築することが重要です。


参考資料:

  1. 山口幸一「ゴム金型の金型汚染と洗浄について」ゴムタイムス(2021)
  2. 「金型汚染など成形トラブルとその防止技術」日本ゴム協会誌
  3. 「ゴムの金型汚染とその防止技術について」ゴム業界.com(2024)
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